お受験ラボ編集部です。小学校受験を控える共働き家庭の多くが直面するのは、限られた時間の中で効率的に準備を進める難しさです。一般的には受験準備に月100~150時間が必要と言われますが、共働き家庭では現実的に月60~80時間の学習時間しか確保できないことが多いのが実情です。
この時間差は不安の種となり、「塾の教材は月100時間の学習を想定しているのに、うちは80時間しか取れない。合格できるのだろうか」と焦る方も少なくありません。しかし、実際には時間の絶対量よりも、限られた時間をどう使うかの質が合否を左右します。共働き家庭でも月80時間の学習時間で合格を勝ち取るケースは多く、工夫次第で十分に成果を出せるのです。
この記事では、共働き家庭が月80時間の制約の中で最大限の成果を挙げるための具体的な時間配分と戦略を詳しく解説します。
共働き家庭の学習時間の現実を正しく理解する
月80時間の学習時間とは何か
月80時間は4週間で週20時間に相当します。これを日々の生活に落とし込むと、以下のような時間配分が現実的です。
- 平日の学習時間:
保育園や塾からの帰宅は18時~19時、夕食は19時~19時30分、学習時間は19時30分~20時30分の約1時間、就寝は21時頃。
平日は1日約1時間、週5日で計5時間程度の学習時間が確保できます。 - 休日の学習時間:
土曜日は3~4時間、日曜日は2~3時間で、週末合計は5~7時間程度となります。
平日5時間と週末6時間を合わせると、週11時間、月44時間が最低限の学習時間です。残りの36時間は以下のような工夫やサポートで補います。
- 夏休みや春休みなどの長期休暇で約12時間
- 祖父母のサポート(月2~3回の預かり)で8~10時間
- 親の時間捻出(朝の早起きや昼休みの活用)で12~15時間
このように、月80時間の学習時間は親の工夫や周囲の協力に大きく依存していることがわかります。
月80時間を最大限に活かす3つの戦略
戦略①:受験対策の優先順位を厳しく絞り込む
月100時間の家庭は全分野を7割程度の完成度に仕上げることが可能ですが、月80時間の家庭は特定分野を9割まで高め、その他は基礎対応に留める明確な取捨選択が必要です。
例えば、志望校が行動観察重視の場合の時間配分例は以下の通りです。
- 行動観察対策:月20時間(25%)
- ペーパーテスト:月28時間(35%)
- 運動テスト:月16時間(20%)
- 工作・絵画・音楽:月16時間(20%)
この配分では、行動観察とペーパーテストに重点を置き、その他は基本的な対応に留めます。
一方、ペーパー重視の志望校の場合は以下のように配分します。
- ペーパーテスト:月36時間(45%)
- 行動観察:月12時間(15%)
- 運動テスト:月16時間(20%)
- 工作・絵画・音楽:月16時間(20%)
このように、月80時間の家庭は集中と選別で対策を進めることが求められます。
戦略②:外部教室を「時間創出ツール」として活用する
共働き家庭が外部教室に月8~12万円をかけるのは、単なる教育投資ではなく、親の時間を生み出すための投資と考えることが大切です。例えば、週1回90分の運動教室(月4回で約6時間)に月2万5千円を支払うことで、その6時間を親が他の学習に充てられます。
共働き家庭が外部教室を選ぶ際のポイントは以下の通りです。
- 親の関与が最小限で済む教室を選ぶ(例:運動教室は見守るだけ、絵画教室は添削不要、音楽教室は親が教える必要なし)。親子教室のように親の参加が必須な教室は避けましょう。
- 成果が明確に見える教室を選ぶ。成果が分かりにくい教室に高額をかけるより、確実に成果が出る教室に適正な費用をかける方が親の心理的余裕につながります。
- 通学回数は最小限に抑える。週2回より週1回+家庭補強の方が親の負担は軽減されます。
戦略③:家庭での訓練効率を高める
共働き家庭の家庭訓練は「量」より「質」が重要です。以下の工夫で学習効率を大きく高められます。
- 朝の時間を活用する
親が朝5時30分に起床し、6時~6時30分の30分間、子どもと軽く学習。ペーパーテストの1問~3問程度をこなすことで、脳が最も活発な時間帯を有効活用。これにより平日+月15時間の学習時間を創出できます。 - 親の休暇を戦略的に配分する
年休を連続で取るのではなく、月1~2回の金曜日午後の早退を活用。午後2時に仕事を抜け出し、子どもを塾から迎え、3時~5時の2時間を学習に充てる方法で月4~8時間の時間を生み出せます。 - 移動時間を有効活用する
車の送迎時間に親がペーパーテストの問題を読み上げ、子どもが答える形で月3時間程度の学習時間を確保可能です。 - 祖父母のサポートを活用する
月2回、祖父母に子どもを預ける時間を活用し、親はその間にペーパー教材の準備や過去問分析など、子どもが集中力を必要としない作業を行うことで実質的に学習時間を増やせます。
月別の時間配分モデル(共働き家庭向け)
4月~6月:基礎固めの時期(月75~85時間)
- 塾のペーパーテスト:月30時間
- 技能試験(外部教室):月20時間
- 家庭訓練:月15時間
- 親の準備(過去問分析など):月15~20時間
この時期は新しい学習が中心です。塾の授業を確実に進め、新しい分野の習得に時間を割きましょう。
7月~8月:夏休みを活用する時期(月85~95時間)
長期休暇を最大限に活用します。共働き家庭でも、子どもを親戚や祖父母に預ける時間を確保しましょう。
- 塾の夏期講習:月25時間
- 家庭訓練:月30時間(夏休みならではの時間確保)
- 技能試験:月20時間
- 志望校の分析:月15~20時間
この時期に月95時間に達することで、4月~6月の不足を補えます。
9月~10月:本格的な直前対策(月70~80時間)
- ペーパーテスト(過去問中心):月32時間
- 技能試験:月24時間
- 面接対策:月12時間
- 親の準備・調整:月8~12時間
この時期は新規学習よりも復習と弱点補強がメインです。時間配分を絞ることで、親の精神的余裕も生まれます。
11月:本番前の調整期間(月40~50時間)
- ペーパーテスト:月16時間(軽い復習)
- 技能試験:月12時間(維持訓練)
- 面接:月12~16時間(最終調整)
- その他:月4~6時間
この時期は新しい学習は行わず、訓練量を意識的に減らして子どもの心身を本番に向けて整えます。
共働き家庭が陥りやすい失敗パターンと対策
失敗パターン①:時間不足の焦りから全てを外部教室に任せる
月15万円以上を教室費に充て、家庭での学習をほぼゼロにするケースです。教室ではできても、親がいない本番で対応できないことが多くなります。
対策:外部教室(月8~10時間)と家庭訓練(月8~10時間)のバランスを保つことが重要です。教室費が高いからといって家庭訓練をゼロにすると、子どもの自立性が育ちません。
失敗パターン②:平日の学習不足を週末に詰め込む
平日はほぼ学習なしで、土日に月80時間を詰め込もうとするケースです。子どもが疲れて集中力が落ち、習い事との時間も重なりやすくなります。
対策:平日1日1時間の継続学習に注力しましょう。短時間でも毎日触れることで習慣化と記憶の定着が促されます。
失敗パターン③:塾の教材進度についていくだけで志望校対策が不十分
塾の授業と宿題をこなすだけで、志望校の過去問分析がほぼできていないケースです。志望校の出題傾向と対策がズレたまま本番を迎えることになります。
対策:早い段階(4月頃)から志望校の過去問5年分を確保し、塾教材でカバーされていない分野を特定。そこに集中的に取り組むことが重要です。
失敗パターン④:親の疲弊で訓練の質が低下する
月80時間の学習時間は確保しているものの、親が疲れて質の高い指導ができていないケースです。量は足りていても成果が出にくくなります。
対策:「月80時間」という数字に固執せず、質の高い学習を目指しましょう。月60時間でも、親が楽しみながら教えられる環境なら、疲弊しながらの100時間より成果が大きいこともあります。
共働き家庭が持つべき心構え
心構え①:月100時間の家庭と比較しない
月150時間かけて合格した話を聞くと不安になるかもしれませんが、月80時間で合格した家庭も多く存在します。大切なのは「あなたの家庭で実行可能な最善の準備」を見つけることです。
心構え②:親の時間創出は『投資』ではなく『生存戦略』と考える
朝の早起きや昼休みの活用、祖父母に預ける際の心構えは、子どものためだけでなく、親自身が無理なく続けるための工夫です。その結果として、子どもに最善の準備ができるという逆説的な構造を理解しましょう。
心構え③:「100時間信仰」を手放す
教育業界では「小学校受験には月100~150時間必要」と言われがちですが、これは理想的な家庭の数字です。共働き家庭には共働き家庭の現実があり、その中で最大の成果を出す戦略が存在しています。
まとめ:共働き家庭の合格戦略は「集中と選別」が鍵
小学校受験における学習時間は成功の要因の一つですが、それだけが全てではありません。共働き家庭が月80時間の制約の中で合格できるのは、その制約が「優先順位の厳密な選択」を促すからです。
月100時間の家庭は「すべてを対策する」という甘えに陥りやすいですが、月80時間しかない共働き家庭は、初めから「何に時間をかけるか」という本質的な問いに向き合っています。この制約が、結果的に「最も効果的な対策」を生み出しているのです。


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