お受験ラボ編集部です。兄弟姉妹で小学校受験を同時に進めるご家庭は少なくありません。難関校の合格者の約30%が兄弟姉妹受験の経験者というデータもあります。しかし、複数の子どもの受験を両立させるには、特有の課題や悩みがつきまといます。この記事では、上の子の我慢や下の子の有利さ、そして親の罪悪感といった問題にどう向き合い、具体的にどのように対応すればよいかを詳しく解説します。
兄弟姉妹受験の現実を正しく理解しよう
兄弟姉妹での小学校受験は、親の時間やエネルギーがどうしても下の子に偏りがちになるため、上の子が長期間にわたり我慢を強いられることが多いのが現実です。また、下の子が「有利」と言われることもありますが、それは親の経験や対策が蓄積されるためであり、必ずしも単純な優位とは言い切れません。さらに、親自身も公平性の維持やリソース配分に悩み、罪悪感を抱くことが少なくありません。こうした課題を正しく理解し、家族全体で乗り越えていくことが大切です。
上の子の「我慢」を理解し、丁寧に受け止めるポイント
なぜ上の子は我慢を感じやすいのか
上の子が我慢を感じやすい時期は大きく3つに分けられます。
- 受験前年(下の子が年長の前年)
親の関心が徐々に下の子の受験準備に移っていく
兄弟姉妹の習い事の調整で、上の子の習い事の時間が減ることがある
親の心理的余裕が減り、上の子への接し方がどうしても事務的になりやすい - 受験当年(下の子が年長)
親の時間の大半が下の子の受験対策に割かれる
上の子の学校の課題や友人関係の悩みに十分に寄り添えないことがある
家庭の生活リズムが下の子の受験スケジュール中心に回る - 受験直後(下の子が小学1年生)
下の子の合格祝いと入学準備に親の関心が集中する
上の子に「お兄さん/お姉さん」として親のサポート役を期待する場面が増える
急に「これからは自分たちで仲良くしてね」と自立を促されることもある
上の子の本当の気持ちに寄り添う
親はつい「上の子が下の子のために我慢してくれている」と考えがちですが、子どもたちの心情はもっと複雑です。上の子は「親が自分を見てくれていない」という疎外感を抱くことがあり、自己肯定感に影響を及ぼすこともあります。また、「なぜ自分のときはここまでしてもらえなかったのに、下の子は違うのか」という不公平感や嫉妬、怒りを感じることも少なくありません。さらに、「お兄さんだから」「お姉さんだから」という期待が無言のプレッシャーとなり、上の子に重くのしかかることもあります。こうした気持ちに丁寧に寄り添い、言葉で伝え合うことが重要です。
「下の子有利」は本当?データと実態を冷静に見つめる
統計から見る兄弟姉妹受験の実態
「下の子が有利になるのか」という疑問に対して、統計的には難関校合格者の中で兄弟姉妹がいる子どもの合格率は一人っ子とほぼ変わらないという結果が出ています。つまり、単純に「下の子が有利」という事実はデータ上確認できません。
ただし、特定の条件下では下の子が有利となるケースもあります。例えば、上の子の不合格経験を踏まえて親が対策の質を高めた場合や、上の子のサポートで下の子が精神的な安定を得られた場合、また親が複数回の受験経験を通じて精神的余裕を持てるようになった場合などです。
一方で、親の上の子への執着が下の子への過剰なプレッシャーに変わったり、上の子の不合格をリベンジと捉えて下の子に過度な期待をかけたり、兄弟姉妹間で親の愛情を競い合う心理が生じる場合は、下の子にとって不利になることもあります。つまり、「下の子が有利かどうか」は親の対応や家庭環境によって大きく左右されるのです。
下の子が受ける具体的なメリット
下の子に見られる主なメリットは次の3つです。
- 安心感
上の子が受験を経験していることで、受験の流れや雰囲気を事前に知ることができ、不安が軽減されやすくなります。 - 試験への免疫
上の子の受験期間中、親の緊張や不安を間近で感じながら、「受験は怖いものではない」という感覚が自然と身に付くことがあります。 - 兄弟姉妹からの具体的なサポート
上の子が過去問の攻略法や当日の流れを教えてくれるため、親の説明とは異なる身近な視点から理解が深まり、安心感が高まります。
親の罪悪感と現実的な判断基準を持つことの重要性
親が抱える複雑な感情
兄弟姉妹の受験を支える親の感情は、単なる忙しさを超えています。特に「どちらかを選ぶ」ことへの罪悪感が大きいです。例えば「今は下の子のペーパー対策を優先する」と決めれば、その分「上の子の学校の課題に十分関われない」という選択をすることになります。この判断の正当性を自分に問う苦しさは計り知れません。
また、下の子の受験対策が丁寧に見えると、上の子は「自分のときはそこまでしてもらえなかった」と感じることがあります。親は配慮と説明を重ねて不公平感をできるだけ減らす努力が求められます。この精神的な負担は、実際の勉強時間以上に重くのしかかることも少なくありません。
親が持つべき現実的な判断基準
こうした複雑な感情を踏まえ、親として心に留めておきたいポイントは次の通りです。
- 完全な公平は難しいことを理解する
兄弟姉妹が異なるタイミングで受験する以上、完全な公平を保つのは現実的に困難です。親が目指すべきは「不公平感を最小限に抑える工夫」と「説明の透明性」です。具体的には、「今は下の子に時間をかけるが、その理由はこうだから」と子どもたちに正直に伝えることが納得につながります。 - 受験の優先順位を家族で共有する
「今は下の子の受験が最優先なのか」「上の子の学校生活を優先するのか」、その優先順位を親が明確に持ち、家族全体で共有することが重要です。これにより、日々の時間配分の判断がしやすくなり、後悔や不満が減ります。
月別対応モデルで具体的に進める兄弟姉妹受験の方法
下の子が受験前年(上の子が小学1~3年生)の時期
この時期は、上の子への配慮を最大限に意識することが求められます。
親が心がけるポイント:
- 上の子の学校の課題や友人関係には最低限の関心を保つ
- 上の子が「親に見放された」と感じないよう、週に1回は上の子だけと過ごす時間を設ける
- 下の子の受験準備は、家庭学習の習慣づけ程度にとどめる
下の子の訓練内容:
- 塾への入会は遅めに(遅くとも年長の9月から)
- 家庭で遊びを通じた学習(パズルやカード遊びなど)を中心にする
- 習い事は本人の希望を尊重し、親の都合で削減しない
下の子が受験当年(上の子が小学2~4年生)の時期
この期間は、上の子の我慢が最も大きくなる時期です。
親が実践すべき工夫:
- 上の子への説明と感謝を忘れない
月に1回は「受験のために協力してくれてありがとう」と伝える
「受験がなければもっと君に時間を使えたのに」という親の本音も、子どもが察知しないよう言葉にして感謝を示す - 上の子との個別時間を確保する
週末に30分から1時間、上の子だけと過ごす時間を設ける
その時間は下の子の受験の話を避け、上の子が親に見捨てられていないと感じられるようにする - 上の子の役割を明確にし、負担をかけすぎない
「お兄さん/お姉さんだから助けて」と無言の圧力をかけるのではなく
「下の子が困っていたら一緒に考えてあげる?」という選択肢として提示する
強制ではなく、上の子が自発的に参加できる環境をつくる
下の子の訓練内容:
- 塾での本格的な学習(月60~80時間)
- 家庭での訓練(月20~30時間)
- 親の時間配分は下の子受験対策に70%、上の子への関わりに30%を目安にする
下の子の受験直後(上の子が小学3~5年生)の時期
受験終了後の時期は、意外と難しい場面が多いものです。
避けるべき対応:
- 下の子の合格を家族全体の過剰な喜びとして祝い、上の子の「自分のときは十分サポートされなかった」という気持ちを刺激しない
- 急に「これからは自分たちで仲良くしてね」と自立を促しすぎる
親がすべき対応:
- 上の子へのフォローアップ
「受験期間中、十分に時間を割けず申し訳なかった」と謝罪する
「これからは君のやりたいことをしっかりサポートしたい」と未来に向けたメッセージを伝える - 兄弟姉妹関係の構築支援
「下の子を助ける」ことを強制せず、「兄弟姉妹で一緒にやりたいことがあったら教えてね」と柔軟な関わりを促す
よくある失敗例と具体的な対策
パターン①:上の子への配慮不足で兄弟関係が悪化する
ケース:下の子の受験後、親の「お姉さんだから」という期待に上の子が反発し、兄弟間の関係が冷え込んでしまう。
対策:受験期間中から上の子への個別サポートを意識的に行い、「やってあげている感」ではなく「親も一緒に工夫している」という姿勢を示すことが大切です。
パターン②:下の子に上の子以上の期待をかけすぎる
ケース:上の子の不合格経験を受け、親が下の子に「絶対合格しなければ」と過度なプレッシャーをかけ、下の子が潰れてしまう。
対策:「上の子と下の子はそれぞれ異なる個性を持つ」と理解し、下の子のペースを尊重することが重要です。
パターン③:上の子に下の子の勉強を丸投げする
ケース:親の時間不足から、上の子に「下の子の勉強を見ておいて」と責任を押し付け、上の子が「親の代わり」になってしまう。
対策:上の子は親のアシスタントではなく兄弟姉妹です。親の役割は責任を持ち、上の子の協力はあくまで「選択肢」として尊重しましょう。
兄弟姉妹受験を良い方向に導くための工夫
工夫①:兄弟姉妹での共有体験を意識的に作る
受験準備に時間がかかるからこそ、家族全体で受験以外の思い出を積極的に作ることが大切です。
具体例:
- 月に1回は家族で公園に出かけ、下の子の受験対策を休む日を設ける
- 週末に兄弟姉妹で一緒に家事やお手伝いをする時間を作る
- 下の子の受験直前に、上の子から応援メッセージを書かせて渡す
工夫②:上の子のメリットを見える形にする
「お兄さん/お姉さんとして親に協力している」という誇りを持てるよう、親が積極的に支援しましょう。
例えば:
- 下の子が「兄のアドバイスで問題が解けた」と話すことを親が上の子に伝える
- 「君のおかげで弟・妹が頑張れている」と定期的に感謝の言葉をかける
工夫③:受験終了後は上の子の時間を大切にする
下の子の受験が終わったら、「これからは君の番だよ」というメッセージを伝え、親の時間配分を上の子にシフトすることを約束しましょう。約束内容は、例えば空手教室の回数を増やすことや、親が学校の課題を見ることなど、上の子の希望を尊重しながら決めるのが望ましいです。
兄弟姉妹受験は親の工夫次第で大きく変わる
兄弟姉妹での小学校受験において、上の子の我慢や下の子の有利・不利は、実は親の対応次第で大きく左右されます。確かに「時間やエネルギーは限られている」という現実は変えられません。しかし、その制約の中で「親がどう工夫し、子どもたちにどう説明し、家族としてどう向き合うか」で、経験の質は大きく変わります。完全な公平は難しいものの、「透明性」「配慮」「感謝」という3つの要素を大切にすれば、兄弟姉妹受験は家族の絆を深める貴重な機会にもなり得るのです。


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