こんにちは。お受験ラボ編集部です。小学校受験の現場で15年間講師を務めてきた私から、今日は少し現実的なお話をさせてください。
それは、「小学校受験はゴールではなく、あくまで通過点である」ということです。
合格発表の日、喜びに涙する親子の姿を何度も見てきました。その気持ちは痛いほどわかります。しかし、私の心の中ではいつも「ここからが本当のスタートだ」と感じています。
この記事では、合格後の6年間に待ち受ける現実と、受験を通過点として捉えることの重要性についてお伝えします。合格だけを目標にしてしまうと、入学後に親子ともに苦しい思いをしやすいからです。
合格した瞬間から始まる「本当の学び」
入学後の厳しい現実
多くのご家庭は、合格した瞬間に「やっと受験勉強から解放される」と安堵します。
しかし、実際はそう簡単ではありません。
私立小学校の授業は、公立よりも進度が速いことが多く、特に算数や英語では学年を先取りするカリキュラムを採用している学校も珍しくありません。
さらに、長期休みの宿題の量も想像以上です。
「夏休みの宿題が終わらず、最後の3日間を親子で泣きながら過ごした」という話を保護者の方から何度も聞きました。受験期の「1日30分のプリント学習」とは比べものにならない負担です。
周囲の子どもたちも優秀な環境
もう一つ、見落としがちな現実があります。
入学してくる子どもたちは、全員が受験を乗り越えてきた優秀な仲間たちです。
公立小学校のように学力差が大きい環境とは異なり、みんなが一定以上のレベルにあります。その中でお子さんがどの位置に立つかは、入学してみないとわかりません。
15年間の経験で気づいたのは、「受験では優秀だった子が、入学後に伸び悩む」ケースが決して珍しくないということです。受験時の成績は、あくまでスタートラインの一つの目安に過ぎません。
「内部進学」という新たな壁と課題
エスカレーター式の落とし穴
「うちの子は大学まで一貫校だから、もう受験は不要」と安心しているご家庭が、小学校高学年になって慌てることもよくあります。
確かに内部進学はありますが、無条件ではありません。
多くの一貫校では、以下のような条件が設けられています。
- 定期テストで一定以上の成績を収めること
- 出席日数の確保
- 素行に問題がないこと
- 場合によっては内部進学試験の実施
私の知る学校では、毎年数名が「内部進学できず、外部受験を余儀なくされる」ケースもあります。
中学受験組との学力差
もう一つ見逃せない問題があります。
それは、中学校から外部受験で入学してくる生徒との学力差です。
中学受験は小学校受験以上に競争が激しく、小学校4年生から3年間、毎日数時間の勉強を積み重ねてきた子どもたちと、内部進学で進んできた子どもたちでは、学力に大きな差が生じることがあります。
「中学に進学してから授業についていけず、自信を失った」という保護者の声も何度も聞いています。
増加する「私立小学校からの中学受験」
統計が示す現状
最近は、私立小学校に通いながら中学受験をする家庭が増えています。
「せっかく小学校受験をしたのに?」と驚かれるかもしれませんが、理由を聞くと納得できることが多いです。
- 内部進学の中学校が志望する進路に合わない
- 中学受験組との学力差を心配している
- 子ども自身が別の学校を希望した
- 男子校・女子校に変更したい
私の教室にも、私立小学校に通いながら中学受験の勉強をしている子どもが何人もいます。
ダブルの負担に注意
小学校受験と中学受験の両方を経験したご家庭からは、「どちらも大変だった」という声が多く聞かれます。
小学校の宿題や行事をこなしつつ、中学受験の勉強も並行して行うため、時間的にも金銭的にも大きな負担となります。
特に通学時間が長い場合は、往復で1時間以上かかることもあり、その分勉強時間が削られるのは避けられません。
入学後の6年間で本当に大切にしたいこと
学力だけでない子どもの成長
ここまで厳しい現実をお伝えしましたが、決して「小学校受験は無駄」と言いたいわけではありません。
むしろ、入学後の6年間をどう過ごすかが何より重要です。
私が15年間見てきた中で、充実した小学校生活を送った子どもたちに共通していたのは、以下の3点です。
- 勉強以外の夢中になれる何かを持っていること
音楽、スポーツ、アート、プログラミングなど、何でも構いません。夢中になれるものがある子は、勉強でつまずいても立ち直りが早いです。 - 親が点数だけで評価しないこと
テストの点数が悪くても、「よく頑張ったね」「次はどうしたらいいかな?」とプロセスを見てあげられる親のもとで育った子は、自己肯定感が高い傾向にあります。 - 友達関係を大切にしていること
私立小学校は公立に比べて人間関係が固定されやすいため、良好な友人関係を築けるかどうかが6年間の満足度を大きく左右します。
小学校受験を「通過点」として捉えるために
小学校受験を通過点と考えるとは、以下のような意味です。
- 合格はゴールではなくスタートだと理解する
- 入学後も学習習慣を継続する
- 内部進学の条件を早めに確認しておく
- 子どもの成長や適性を見ながら柔軟に進路を考える
- 勉強だけでなく、人間としての成長を大切にする
受験勉強で培った「頑張る力」や「諦めない心」は、6年間ずっと役立ちます。しかし、それを「合格したから終わり」としてしまうのは非常にもったいないことです。
後悔しないための親の心構え
親の期待値を現実的に調整する
率直に申し上げます。
小学校受験で志望校に合格しても、その後の人生がすべて順調に進むとは限りません。
- 友達関係で悩むこともあります
- 勉強でつまずくこともあります
- 学校の方針が合わないと感じることもあります
「せっかく入ったのに」と感じるかもしれませんが、これは公立でも私立でも同じです。
大切なのは、完璧な学校は存在しないと理解し、起こる問題にどう向き合うかです。
子どもの気持ちを最優先に考える
もう一つ、15年間の経験で強く感じたことがあります。
それは、親の都合や見栄で受験を進めると、入学後に必ず歪みが生じるということです。
「◯◯小学校に通わせている」という親の満足感のために、子どもが苦しんでいるケースを何度も見てきました。
受験も入学後も、常に「この子にとって本当に幸せか?」を問い続けてください。
6年間を豊かに過ごすための具体的なアドバイス
入学前に準備しておきたいこと
学校の教育方針を再確認する
合格して終わりではなく、改めて学校のホームページや資料を見直しましょう。内部進学の条件、カリキュラムの特徴、保護者の関わり方などを把握しておくことが大切です。
生活リズムを整える
私立小学校は通学時間が長いことが多いので、入学前から早寝早起きの習慣をしっかりつけておきましょう。
家庭学習の習慣を継続する
受験が終わったからといって勉強をやめるのではなく、1日15分でもいいので学習習慣を続けることが重要です。
低学年(1〜2年生)の過ごし方
- 学校生活に慣れることを最優先に
友達作りや先生との関係、通学に慣れることに注力しましょう。勉強の心配は、これらが安定してからで大丈夫です。 - 宿題を丁寧にこなす習慣をつける
低学年のうちに「丁寧に取り組む」習慣を身につけると、高学年になってから楽になります。
中学年(3〜4年生)のポイント
- 得意・不得意が見えてくる
この時期にお子さんの得意分野が明確になります。無理に苦手を克服するより、得意を伸ばす方が効果的な場合もあります。 - 中学受験を検討するなら早めに決断を
外部受験を考えている場合は、4年生の冬までには決断しましょう。それ以降では準備期間が不足します。
高学年(5〜6年生)の過ごし方
- 内部進学の準備を始める
5年生から内部進学試験の準備が本格化する学校もあるため、早めに情報収集をしましょう。 - 将来について親子で話し合う
「なぜ勉強するのか」「将来どうなりたいか」など、親子でじっくり話す時間を大切にしてください。
最後に:受験はあくまで「手段」
15年間多くの親子を見てきて、私が確信していることがあります。
それは、本当に幸せそうな子どもは、親が「受験」ではなく「子ども自身」を見ている家庭の子どもだということです。
小学校受験はお子さんの可能性を広げるための「手段」です。しかし、それが「目的」になってしまうと本末転倒です。
合格は素晴らしい成果ですが、それはあくまでスタート地点に過ぎません。
6年間という長い時間を、お子さんがどう過ごすかに寄り添い、サポートし、時には厳しく、時には優しく見守ることが親の本当の役割だと私は考えています。
受験勉強で培った「頑張る力」を6年間ずっと持ち続けられるように。
そして何より、お子さんが「この学校に入ってよかった」と心から感じられるように。
一緒に、長い目で子育てを楽しんでいきましょう。
おすすめ参考図書【入学後も役立つ本】
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【親の心構え】
『自分から学べる子になる 戦略的ほったらかし教育』岩田かおり/ディスカヴァー・トゥエンティワン
親が頑張りすぎず、子どもが自分で考え自分で動けるようになる関わり方をまとめた一冊。小学校入学後に「親が全部管理しないと不安」という方に特におすすめです。
『本当に勉強ができる子になる子育て』西村則康/幻冬舎
中学受験指導で有名な著者による家庭での声かけや生活習慣づくりに焦点を当てた本。受験の有無に関わらず、「学び続ける子」の基盤作りに役立ちます。
『首都圏・東日本国立・私立小学校進学のてびき(最新年度版)』日本学習図書
首都圏〜東日本エリアの国立・私立小学校の基本データや進学実績、内部進学の状況がまとめられた資料集。入学後の進路検討に役立ちます。
【学習サポート】
『小学生の学力は「計画力」で決まる!』坂本七郎/大和出版
「何を・いつ・どのくらいやるか」を自分で考えられる子に育てるための本。家庭学習の具体例や親が手を出しすぎない工夫が分かりやすくまとめられています。
『中学受験 基本のキ! 改訂新版(日経DUALの本)』西村則康 ほか/日経BP
中学受験を検討中の親向けに、受験の全体像やスケジュール、費用感を整理。私立小から中学受験に進む際の注意点にも触れています。
【子どもとの関わり方】
『モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くした オックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方【特別動画付き】』島村華子/ディスカヴァー・トゥエンティワン
海外の教育理論を踏まえた「ほめ方・叱り方」の実例が豊富に掲載。小学校低〜中学年の自立を促す時期に特に役立ちます。
『子どもが伸びる「待ち上手」な親の習慣』庄子寛之/青春出版社
「つい口を出しすぎてしまう」「イライラしてしまう」親御さん向けに、「待つ」「見守る」ための具体的なコツを整理。小学校6年間を通して活用できます。
お受験ラボより
小学校受験は通過点です。その先の6年間、さらに中学・高校・大学と続く長い人生の中で、お子さんが自分らしく成長していけることを願っています。
