単なる数字の羅列ではなく、「数字の裏にある実態(権利保持や学部選び)」や「学校ごとのカルチャーの違い」に踏み込み、親御さんが志望校選びで後悔しないための視点をお伝えします。
大学までの内部進学率ランキング(首都圏)|「全入」の罠と「他大受験」の権利
「大学附属校に入れば、受験地獄から解放されて、楽しい学校生活が待っている」
そう期待して附属校を選んだものの、入学後に「思っていたのと違った」と感じる家庭は少なくありません。同じ「大学附属」という名前でも、ほぼ全員がエスカレーター式に進学できる学校と、実質的に進学校と変わらない競争がある学校があるからです。
この記事では、首都圏の主要な大学附属校を「内部進学率」という視点で分類・ランキングし、その実態や選び方のポイントを詳しく解説します。
1. 内部進学率の数字を理解する前に知っておきたい3つのタイプ
ランキングを見る前に、まず押さえておきたいのが附属校の3つのタイプです。これを知らずに偏差値だけで判断すると、思わぬミスマッチを招きかねません。
- 完全附属型(エスカレーター式)
- 内部進学率は90%以上。基本的に全員が系列大学へ進学します。
- 校風はのびのびとしていて、アカデミックで自由な雰囲気が特徴です。
- 半附属・進学校化型
- 内部進学率は50〜80%程度。他大学(国公立や医学部)への受験を推奨する傾向があります。
- 校風は勉強熱心で、進学校に近いカリキュラムが組まれています。
- 係属校・別法人型
- 大学と同じ名前を持つものの、経営母体が異なるか、内部進学枠が非常に少ない(10〜30%程度)学校です。
- 校風は実質的に進学校と同様です。
「内部進学率」とは単なる進学確率ではなく、学校がどの方向性で教育を行っているかを示すバロメーターでもあります。
2. 【Sランク】内部進学率95%以上|慶應を筆頭に完全附属の安心感
このグループは、特別な事情がない限りほぼ全員が系列大学へ進学します。大学受験のストレスから解放され、のびのびと学校生活を送れる環境です。
| 学校名(系列) | 内部進学率の目安 | 特徴・実態 |
| 慶應義塾 系列 (幼稚舎・横浜初等部・普通部・中等部・SFC) |
ほぼ100% | 【王者の安定感】 医学部の枠は狭いものの、慶應大学への進学はほぼ確実です。留年基準は厳しいですが、進学権自体は強固で、外部受験する生徒は非常に少数です。 |
| 早稲田大学本庄・早稲田実業 | ほぼ100% | 【早稲田の直系】 早稲田大学への推薦枠が全生徒分用意されています。特に早実は初等部からの一貫教育で、スポーツや芸術に力を入れる生徒が多いです。 |
| 学習院 (初等科〜高等科・女子中高等科) |
約95%〜 | 【伝統の内部進学】 かつてはほぼ全員が進学していましたが、近年は医学部など他大学を目指す生徒も増えています。それでも「学習院に進む」という空気は根強いです。 |
| 日本女子大附属 聖心女子学院 |
約90〜95% | 【女子校の王道】 系列大学への信頼が厚いですが、理系学部や他大学への進学希望者も増加傾向にあります。学校側が進学を制限することはありません。 |
★ポイント
このグループのメリットは、大学受験の心配がほぼなく、習い事や留学に集中できることです。一方で、子どもが系列大学にない学部(医学部や芸術系など)を希望した場合は、内部進学権をあきらめて外部受験に挑む覚悟が必要です。
3. 【Aランク】内部進学率80〜90%|GMARCH附属校の学部争奪戦
首都圏で人気が高いのが、このMARCHクラスの附属校です。ほとんどの生徒が大学へ進学しますが、希望の学部に進めるかは別問題です。
| 学校名(系列) | 内部進学率の目安 | 特徴・実態 |
| 立教 系列 (池袋・新座・女学院) |
約80〜90% | 【他大受験も視野に】 立教への推薦を保持しつつ他大学を受験できる制度(条件付き)や、他大志望のクラスもあります。人気学部は成績上位者でないと難しいです。 |
| 青山学院 (初等部・中等部・高等部) |
約80〜90% | 【高偏差値の人気校】 内部進学の基準は厳しく、学力テストの結果が重視されます。多くが青山学院大学へ進学しますが、外部受験も一定数います。 |
| 中央大学 系列 (附属・杉並・横浜) |
約85〜90% | 【法学部争奪戦】 看板学部の法学部への内部枠争いが激しく、近年は横浜校の人気も高まっています。 |
| 明治大学 系列 (明治・明大中野・中野八王子) |
約80〜90% | 【進学校の色合い強め】 MARCHの中で最も勉強に厳しく、明治大学の統一テスト結果で学部が決まるため、附属校でも受験生並みの努力が求められます。 |
| 成城学園・成蹊 | 約50〜70% | 【外部受験増加傾向】 かつては高い内部進学率でしたが、近年は早慶や国公立を目指す生徒が増え、外部受験が増加しています。学校も進学指導に力を入れています。 |
★ポイント
大学進学の安心感はありますが、希望学部に進むための校内競争は激しく、高校3年間は気を抜けません。これを「健全な競争」と受け止められるか、「結局受験と変わらない」と感じるかは人それぞれです。
4. 【Bランク】内部進学率50%前後|半附属のハイブリッド校
このタイプは「附属校」とは名ばかりで、実態は進学校に近いです。内部進学の保険を持ちながら、より上位大学を目指す生徒が多く集まります。
| 学校名(系列) | 内部進学率の目安 | 特徴・実態 |
| 早稲田中学・高等学校 | 約50% | 【特殊な立ち位置】 早稲田大学の系属校ですが、約半数は東大・京大・国公立医学部など他大学へ進学します。成績上位層が他大へ抜け、中間層が早稲田大学に進む構図です。「早稲田に行ければ十分」という空気は薄く、より高みを目指す風潮があります。 |
| 國學院久我山 | 少なめ | 【別法人の進学校】 國學院大学への推薦枠はありますが、多くの生徒が他大学を受験する進学校としての実績が中心です。部活動も盛んです。 |
| 芝浦工業大学附属 | 上昇中 | 【理系に強み】 豊洲への移転で人気が急上昇。芝浦工大への推薦を持ちながら他大学も受験できる制度が充実しており、理系志望者にとって安心の滑り止めとなっています。 |
★ポイント
このタイプは大学受験勉強が必須です。内部進学の権利を使う生徒もいますが、校内は受験モードの雰囲気が強く、のんびりした附属校生活を期待するとギャップを感じるかもしれません。
5. 知っておきたい「内部進学の権利保持(併願)」のルール
ランキングと合わせて必ず確認してほしいのが、「内部進学の権利を持ったまま他大学を受験できるか」という点です。
- 専願のみ(退路なし):慶應や早稲田の多くがこの形です。「他大学を受験するなら内部推薦を放棄してください」というルールで、滑り止めがなくなるため外部受験は大きな賭けになります。
- 併願可(保険あり):立教(条件付き)、芝浦工大、日本大学(一部)、都市大付属などがこれにあたります。系列大学の合格をキープしながら国公立や早慶に挑戦できるため、親としては安心感が高い制度ですが、倍率が高くなる傾向があります。
6. 附属校ならではのリスク「深海魚」問題
最後に、ランキングには表れにくいリスクについて触れておきます。それは成績下位層、いわゆる「深海魚」の問題です。
進学校なら成績が振るわなくても、偏差値の低い大学に進学する道があります。しかし完全附属校の場合、成績が一定基準(評定平均など)に達しないと、以下のような厳しい現実が待っています。
- 留年・退学:義務教育終了時や高校進級時に退学を促されることがあります。
- 学部選択の制限:人気のない学部や遠方キャンパスの学部しか選べない場合があります。
- 内部進学不可での外部受験:高校3年生になってから「内部進学できない」と告げられ、受験勉強の準備ができていない状態で外部受験に挑むことになります。
「附属校に入れば安心」ではなく、「附属校に入って、一定の成績を維持できれば安心」という認識が正しいのです。
7. まとめ:わが家に合う内部進学率はどれ?
- 大学受験を完全に回避し、のびのび青春を楽しませたいなら👉 Sランク(慶應・早実など)。ただし入学難易度は非常に高いです。
- MARCH以上を確保しつつ、希望学部や将来の選択肢を広げたいなら👉 Aランク(立教・青学・明治・中大など)。コツコツ努力できるお子さま向けです。
- 理系や医学部、国公立大学も視野に入れたいなら👉 Bランク(早稲田高・芝浦工大など)。進学校としての厳しさを受け入れられる家庭に向いています。
内部進学率ランキングは単なる優劣ではありません。数字は、学校が「大学進学を使命としているのか」「より高い学力をつけることを使命としているのか」というメッセージでもあります。
お子さまの性格や学習スタイル(コツコツ型か、一発勝負型か)に合わせて、最適な内部進学率の学校を選んでください。
次にあなたがすべきこと
気になる附属校があれば、学校説明会でぜひ以下の質問をしてみてください。
- 「内部進学の権利を持ったまま、他大学を受験することは可能ですか?」
- 「希望の学部に進むための具体的な決定方法(テスト一発勝負か、3年間の評定か)を教えてください」
この2点を確認するだけで、入学後の進路プランがぐっと具体的になります。


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