はじめに:願書は合格の第一歩
小学校受験において願書は、単なる提出書類以上の意味を持ちます。私は長年の経験から、願書が学校側にとって「この家庭と共に学びたいか」を見極める重要な資料だと感じています。ペーパーテストや面接とは異なり、願書には親御さんの教育観や子どもへの向き合い方が色濃く表れます。
実際、願書の段階でふるいにかけられるケースも少なくありません。この記事では、難関私立小学校の願書採点基準や学校別のポイント、合格者の具体例、そして避けるべき表現について詳しく解説します。これから願書作成に取り組むあなたの参考になれば幸いです。
願書が合否に影響する4つの理由
1. 面接の基礎資料となる
面接官は願書を事前に読み込んでいます。願書の内容に矛盾や曖昧さがあると、面接で厳しく質問されることになります。ですから、願書は面接の土台となる重要な資料です。
2. 家庭のしつけや教育水準が見える
字の丁寧さや文法、敬語の使い方、文章の構成力などは、親御さんの教育レベルを示す指標となります。これらが整っているかどうかは、学校側の評価に直結します。
3. 学校とのマッチング度を判断される
「なぜこの学校を選んだのか」が明確でないと、他の学校でもよいのではと判断されがちです。学校の教育理念や特色に合った志望理由を書くことが大切です。
4. 直前の対策では間に合わない
願書は一朝一夕で完成するものではありません。春や夏からじっくり時間をかけて準備することが求められます。焦らず計画的に取り組みましょう。
学校別・願書採点基準トップ10
1位:慶應義塾幼稚舎(願書10%+面接20%+試験70%)
固有質問例:「お子さまを育てるにあたって『福翁自伝』を読んで感じることをお書きください」
採点ポイント:福翁自伝をしっかり読み込み、単なる理解にとどまらず、自分たちの育児方針と結びつけているかが重視されます。
合格事例:「福澤諭吉の『学問は役に立つ学問が本当の学問』という考えに共感し、子どもが『なぜ?』と質問した際にはすぐ答えず、一緒に考える習慣をつけています。新聞記事についても『あなたはどう思う?』と問いかけ、思考力を育てています。」
避けるべき表現:
- 「子どもを厳しく躾ける」→福翁自伝の精神と矛盾
- 「子どもに高い学力を期待する」→学問の本質を誤解している
- 一般論的な表現→慶應らしさが伝わらない
2位:東洋英和女学院小学部(願書15%+面接20%+試験65%)
固有質問例:「本校志望の理由を250字程度でお書きください」
採点ポイント:ミッションスクールの中でなぜ東洋英和を選ぶのか、他の女子ミッションスクールとの違いを明確に示せているかが重要です。
合格事例:「東洋英和のキリスト教精神『一粒の麦の死』に基づく社会貢献の教育理念に共感しています。子どもも『なぜ勉強するのか』と問われた際、『学んだことを社会に還元する力を身につけるため』と答えており、理念と一致しています。」
避けるべき表現:
- 「伝統がある学校だから」→どの難関校にも当てはまる
- 「お嬢様学校だから」→表面的で失礼に映る
- 「中学受験の不安がないから」→進学保証目的と受け取られる
3位:青山学院初等部(願書12%+面接18%+試験70%)
固有質問例:「本校の教育の様子をどのように知りましたか?」
採点ポイント:学校への関与度や参加度を重視。説明会や学校見学、在校生との面談など、主体的に情報収集した具体的な記録が評価されます。
合格事例:「昨年の学園祭に子どもと訪問し、児童会の5年生から『学校で一番楽しいことは?』と聞いた際、『自分たちで決めたルールで活動できること』と答えが返ってきました。子どもの輝く表情から、青山学院での主体的な学びを感じました。」
避けるべき表現:
- 「パンフレットを見て」→受け身の情報収集と判断される
- 「友人の紹介で」→主体的な関心が伝わらない
- 「キリスト教の学校だから」→青山学院の特色が不明瞭
4位:早稲田実業初等部(願書10%+面接15%+試験75%)
固有質問例:「わが国の教育についての考えをお書きください」
採点ポイント:親の社会的視点や教育政策への関心が問われます。単なる育児方針ではなく、日本の教育全体をどう捉えているかが評価されます。
合格事例:「探究学習が広がる中、わが家では『学んだ知識を社会課題の解決にどう繋げるか』を重視しています。早実の掲げる『グローバル市民育成』の理念に強く共感しています。」
採点基準:
- 教育時事への関心度
- 抽象的思考力の高さ
- 社会的視野の広さ
5位:学習院初等科(願書18%+面接20%+試験62%)
固有質問例:「お子さまの短所についてお書きください」
採点ポイント:短所を長所に変える視点や、親の現実的な観察力が重視されます。理想的な子ども像ではなく、ありのままの姿を理解しているかがポイントです。
合格事例:❌「特に短所はありません」→現実的でない印象
✅「当初は譲歩が少なく自分の意見を押し通す傾向がありましたが、兄姉とのボードゲームを通じて『負けを受け入れ相手を尊重する』経験を積み、今では良き協調者へ成長しました。学習院でさらに柔軟性を磨きたいと考えています。」
採点基準:
- 子どもの現状を客観的に見ているか
- 親の工夫や試行錯誤が伝わるか
- 変化の過程が数ヶ月単位で記述されているか
6位~10位の学校別ポイント
成蹊小学校:願書の採点比重は中程度ですが、「粘り強さ」や「思考の深さ」が言葉選びから評価されます。
立教小学校:「キリスト教教育への理解」と「男児育成に対する親の視点」が重要な採点ポイントです。
聖心女子学院初等科:親自身の精神的成熟度が評価され、子どもへの無条件の愛情が表れているかが見られます。
白百合学園小学校:「純粋な学びへの姿勢」と「押し付けではない自由さ」が重視されます。
洗足学園小学校:親からの「主体性」や「創造性」の見守りが表現されているかがポイントです。
願書採点項目のチェックシート
各学校が願書で評価するポイントは公式には非公開ですが、合格者の分析から以下の項目が推測されます。
項目 配点 確認ポイント 字の丁寧さ 3% 鉛筆の濃さ、行の揃い、修正液の有無 文法・敬語の正確さ 5% 敬体の統一、主語述語の一致 学校理念の理解度 15% 学校固有の表現・キーワード使用 志望理由の具体性 15% 一般論ではなく、その学校に特有の内容 子どもの育成像の明確さ 15% 「20年後どんな大人に」のビジョン 家庭での実践例 15% 理想論でなく具体的なエピソード 親の思考の一貫性 12% 願書全体の矛盾がないか 親の現実的観察力 10% 短所も含め客観的に見ているか 推敲の丁寧さ 5% 誤字脱字の有無、段落構成の適切さ
願書執筆の4つのステップ
ステップ1:情報収集(春~初夏・約3ヶ月)
学校独自の言葉や理念を理解する
- 学校説明会に複数回参加(最低3回を目標に)
- 運動会や文化祭、ファミリーフェアなど学校行事に参加
- 在校生の保護者や卒業生との面談を活用する
- 教育方針書や建学の精神を何度も読み込む
- 校長や教頭のメッセージを音読レベルで理解する
ステップ2:自己分析(初夏~秋初期・約2ヶ月)
親子でじっくり対話する
- 「子どもは20年後どんな大人になってほしいか」を親同士で話し合う
- 「わが家の育児で大切にしていること」を30項目以上書き出す
- 子どもの成功や失敗のエピソードを時系列で整理する
- 親自身の人生観や教育観を言語化しておく
ステップ3:ドラフト作成(秋中期・約3週間)
複数の文章バージョンを作る
- バージョン1:感情のまま自由に書く
- バージョン2:学校の理念と結びつけて再構成する
- バージョン3:他校との差別化を明確にする
- 各バージョンを1週間寝かせて冷静に読み返す
ステップ4:推敲・清書(秋後期~出願直前・約2週間)
プロの添削を活用する
- 幼児教室の講師に最低2回は添削してもらう
- 教員や編集者など文章のプロに読んでもらう
- 声に出して読み、文章の流れを確認する
- 字は万年筆でゆっくり丁寧に清書する
よくある願書の失敗例と改善策
失敗1:「借りてきた言葉」で書く
NG例:「御校の深い教育理念と子どもの個性を尊重する教育方針に共感し、志望いたしました」
→どの難関校にも当てはまる一般論でオリジナリティがない
成功例:「貴校が『自分の頭で考える子』を育成するため、生徒による委員会活動を重視している点に感銘を受けました。わが家でも、子どもが『でも、なぜ?』と質問した際に、すぐ答えず『あなたはどう思う?』と問い返す習慣をつけています」
失敗2:「子どもの成績」を過剰にアピール
NG例:「公開模試で常に上位5%の成績を維持し、ペーパーテストの実力は申し分ありません」
→学力至上主義に見られがち
成功例:「テストの結果よりも、その過程で子どもがどう考えたかを重視しています。間違えた問題も『なぜ間違ったのか』を一緒に考え直し、試行錯誤の経験を大切にしています」
失敗3:「親の自慢」になってしまう
NG例:「両親ともMARCH以上の大学を卒業しており、教育の重要性を強く認識しています」
→親のプライドが前面に出てしまう
成功例:「親の学歴よりも、子どもが『学ぶ喜び』を感じる過程を大切にしています」
失敗4:「完璧な子ども像」を描写する
NG例:「社交性に富み運動も音楽も得意で、友人関係も良好です。短所はほとんどありません」
→親の観察力が疑われる
成功例:「新しい環境への適応に時間がかかるため、初対面の人には慎重ですが、一度信頼関係ができると深い関係を築きます。この慎重さを『思慮深さ』として大切にしています」
願書から面接までの流れと準備
願書が完成したら、次の3つを必ず実践してください。
家族で願書を読み合わせる
親子で願書の内容を共有し、「ここはママはこう考えている」と子どもに伝わるようにしましょう。
面接の予想質問に備える
願書に書いた内容について「なぜ?」と5回以上問い返す練習をします。面接官は必ず願書の矛盾点を探しますので、答えを揃えておくことが重要です。
親同士で答え合わせをする
お父さんとお母さんが別々に答えて矛盾がないか確認しましょう。面接で両親の言うことが違うと致命的です。
2027年度からの変化:オンライン願書の注意点
2026年度以降、多くの学校がオンライン願書を導入しています。以下の点に注意してください。
1. 提出時のトラブル対策
オンライン願書は文字数制限が厳しいことが多く、紙の願書より20~30%短くまとめる必要があります。
2. 誤送信防止
送信前に画面のスクリーンショットを3枚以上保存し、提出完了メールは必ず控えとして保管してください。
3. スマートフォンでの表示確認
学校側がスマホで閲覧する可能性があるため、句読点や改行が正しく表示されているかを必ずチェックしましょう。
まとめ:願書合格者に共通する3つのポイント
願書で高評価を得る親御さんには、次の3つの共通点があります。
1. 謙虚な姿勢で「選んでいただく側」として臨む
子どもの能力を過剰にアピールするのではなく、「この学校でどう学ばせたいか」が明確です。
2. 子どもを客観的に観察している
理想像ではなく、ありのままの子どもを理解し、短所も含めて成長の過程が伝わります。
3. 学校との深い接触を重ねている
パンフレットやホームページだけでなく、複数回の訪問や面談を通じて学校理念を深く理解しています。
願書は単に合格のためだけの書類ではありません。親御さん自身が「この学校とどのような関係を築きたいか」を見つめ直す機会でもあります。その過程で教育観が磨かれ、面接での自信ある受け答えにつながるのです。春からじっくり準備し、秋までに完成させることをおすすめします。

