小学校受験を控える親御さんが陥りやすい落とし穴の一つに、「塾に入れれば合格できる」という誤解があります。
毎月8万円の塾代を支払い、週に5日も通わせ、テストの結果に一喜一憂する日々。しかし、その結果はどうでしょうか——。
「塾の成績は良いのに、本番で不合格になった」
私が15年以上の指導経験から感じるのは、この失敗例は決して珍しくなく、塾にすべてを任せてしまう家庭の約60%が経験する、ほぼ避けられない結果だということです。
塾の合格実績に隠された真実とは?
「難関校合格率72%」「200名の合格者」などの実績を掲げる塾は多いですが、実はその多くは塾の指導だけでなく、親の努力や工夫が大きく影響しているのです。
実際に合格者を追跡すると、80%以上が「親が家庭学習に積極的に関わっている家庭」でした。
つまり、塾はペーパー対策や面接練習といったテクニック面の指導は得意ですが、合否を左右する本質的な部分は教えきれないのです。
塾では教えられない、親にしかできない3つの大切なこと
1. 「この子は愛されている」という安心感の提供
塾の教室で励ましの言葉をかけることはできますが、夜遅くに親に抱きしめられ、「失敗しても大丈夫」と伝える温もりは塾では作れません。
心理学でいう「安全基地」は、親子の信頼関係の中でしか育まれないものです。
2. 自分で考える力を育てる環境づくり
塾の授業は時間が限られていますが、家庭学習は子どもが「もっと知りたい」と思った瞬間に、何時間でも続けられます。
この試行錯誤や失敗の経験こそが、本当の思考力を育む土台となります。
3. 生活習慣が学力の基盤であることの実感
- 朝日を浴びることはセロトニンの分泌を促し、集中力を高める
- よく噛んで朝食をとることは前頭前野の血流を増やし、処理速度を向上させる
- 夜8時に寝ることは記憶の定着に欠かせない
これらは一見受験とは無関係に思えますが、脳科学が明確に示す重要な要素です。
こうした生活習慣を毎日自然に実践させるのは、親の習慣設計力にかかっています。
合格家庭が親として「やめたこと」
合格した家庭には共通の特徴があります。それは、親が以下のような行動をやめていることです。
- 完璧な管理をやめた — 宿題のすべてを細かくチェックするのではなく、子どもの判断を信じる
- 「〜すべき」という固定観念を手放した — 1日1時間勉強すべきなどのルールに縛られず、その日の状況に柔軟に対応する
- 他の子と比べるのをやめた — 「○○ちゃんはできるのに」と比較することは、子どもの自己効力感を損なう
- 自分を犠牲にするのをやめた — 親自身が充実していることが、子どもの心理的安全基地になる
- 指示で動かすのをやめた — 「勉強しなさい」ではなく、「どう思った?」と問いかけて子どもの思考を促す
- 過度な習い事をやめた — 認知資源は有限で、詰め込みすぎると考える余裕がなくなる
親がこれらをやめることで、自分自身も楽になり、子どもの脳も自由に育ちます。
合格家庭が親として「続けたこと」
一方で、合格家庭が続けている習慣も明確です。
- 朝のルーチン — 毎朝決まった時間に起き、朝日を浴びて、よく噛む朝食をとる
- 親子の対話時間 — 毎日5~10分、「今日どうだった?」と話す時間を持つ
- 親のセルフケア — 週に1回は自分の時間を作り、心身の充実を図る
- 読み聞かせ — 5歳以上でも寝る前に親が絵本を読む時間を大切にする
- 親の穏やかな表情 — 子どもは親の表情や態度を最もよく見ている
塾はあくまで「パートナー」|親の役割を明確にする思考法
塾をただの「任せ先」とするのではなく、「パートナー」として活用する親は、塾と家庭の役割分担をはっきりさせています。
塾が得意なのはペーパー対策や面接のテクニック指導です。一方で、塾が教えられないのは子どもの心の部分です。
塾の指導を受けながら、親は生活習慣の確立や子どもとの対話に時間を割くことが合格への近道となります。
合格と不合格の分かれ道|実例から学ぶ
【失敗例】塾に丸投げしたA家庭
塾の成績は常に上位3割に入り、親は完璧な管理を続けていました。毎月のテストを細かくチェックし、成績が下がればすぐに補習を申し込む徹底ぶりです。
しかし、家庭の雰囲気は緊張感に満ちていて、子どもは常に親の顔色をうかがっていました。面接官は「子どもが親に抑圧されている」と感じ、難関校は全て不合格となりました。
【成功例】家庭主導で塾をパートナーにしたB家庭
塾の成績は中堅レベルで合格判定は50%程度でしたが、親は朝食や読み聞かせ、毎日の対話に時間をかけました。
子どもは親からの安心感を得て、失敗を恐れず挑戦する心が育ちました。面接官は「親の余裕と信頼関係が子どもに伝わっている」と評価し、難関校に合格しました。
親の覚悟が合格をつくる
小学校受験で本当に求められるのは、親の「手放す勇気」です。
塾に全てを任せるのは楽かもしれませんが、それでは合格から遠ざかってしまいます。
逆に、塾をテクニック指導の専門家として割り切り、家庭では「心の土台づくり」「生活習慣の確立」「親子の対話」に時間をかける親が、最終的に合格を勝ち取っています。
あなたのお子さんが面接官の前に立つとき、映るのは塾で成績の良い子どもではなく、「親に愛され、安心感を持っているからこそ、新しいことに挑戦できる子ども」の姿です。
その姿は、親の心構えと日々の小さな習慣の積み重ねで作られていきます。


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