お受験ラボ編集部です。今回は、小学校受験における「絵画試験」について、詳しく解説しました。多くの親が「絵が上手い子が合格する」と思い込みますが、実際には「観察力・想像力・表現力・指示理解力」といった多面的な能力が評価されます。本記事では、何が評価されているのか、どう対策すべきかを、具体的なトレーニング方法と共に紹介します。
はじめに:「上手い絵」ではなく「その子らしい絵」が合格
小学校受験の絵画試験で、多くの親が誤解していることがあります。それは「上手な絵を描く子が合格する」という思い込みです。
実際には、学校が見ているのは以下の3つです:
①観察力:細かい部分に気づけるか
②想像力:テーマをどう解釈し、表現するか
③表現力:自分の考えを絵で伝えられるか
つまり、「技術的な上手さ」より「その子の個性と考え方」が評価されるのです。
絵画試験で評価される「5つの能力」
①観察力(Observation)
何が評価されるか:
- 日常生活で見たものをどれだけ正確に覚えているか
- 動物や人物の特徴をとらえられるか
- 季節や時間帯による色の変化に気づけるか
例:
- 「家族で過ごした時間」を描く際、「誰がどこにいたか」「何をしていたか」という細部が描けるか
②想像力(Imagination)
何が評価されるか:
- テーマが与えられた時、自分なりのストーリーを作れるか
- 複数の選択肢の中から、自分の経験に最も合ったテーマを選べるか
- 「もしも」という仮定を創作できるか
例:
- 「食べたい食べ物」というテーマで、「単に好きな食べ物を描く」のではなく「いつ、誰と、どこで食べたいのか」というストーリーを描く
③表現力(Expression)
何が評価されるか:
- 人物や動物の「動き・感情」を表現できるか
- 風景の「奥行き・広がり」を表現できるか
- 色を使った「雰囲気づくり」ができるか
例:
- 家族が「笑顔」「遊んでいる様子」「団らんしている感じ」を絵で伝えられるか
④指示理解力(Instruction Understanding)
何が評価されるか:
- 試験官の口頭での指示を正確に聞き取れるか
- 「この部分は赤で塗りなさい」という指示に従えるか
- 「中央に大きく描く」という空間指示に従えるか
例:
- 「右上に太陽を描く」という指示を正確に理解し、実行できるか
⑤時間管理能力(Time Management)
何が評価されるか:
- 制限時間内に、完成した作品を提出できるか
- 時間の中で、優先順位をつけて描けるか(最も大切な部分から描くなど)
絵画試験の出題形式と対策
形式1:「テーマ指定型」(最も一般的)
出題例:
- 「楽しかった思い出」
- 「好きな食べ物」
- 「我が家の1日」
- 「秋を見つけた」
- 「家族で遊ぶ様子」
評価ポイント:
- テーマを正確に理解しているか
- 子どもの実体験や観察が反映されているか
- 複数の要素(人物・背景・色)がバランスよく描かれているか
対策: 毎週1回、「自分の経験に基づいた絵」を描く練習を実施。「なぜこの色を選んだのか」「どんな気持ちの時を描いたのか」を子どもに説明させる習慣をつける。
形式2:「条件指定型」(難関校で増加)
出題例:
- 「中央に自分を、左に家族、右に友達を描く」
- 「手前に花、奥に建物がある風景を描く」
- 「赤色を多く使って、嬉しい気持ちを表現する」
評価ポイント:
- 空間認識能力(奥行き・構成力)
- 指示への正確な理解と実行
- 複数の条件を同時に満たしているか
対策:
- 空間認識のトレーニング:「手前・奥」「左・右・中央」という位置概念を意識した描画
- 複数の指示を聞き、それを同時に実行する訓練
形式3:「ストーリーテリング型」(物語の絵画化)
出題例:
- 先生が読み聞かせたお話を聞いて、その場面を描く
- 「昨日読んだ本の一場面を描く」
評価ポイント:
- お話の内容を正確に理解・記憶しているか
- その場面の「動き・感情・雰囲気」を表現できるか
- 登場人物の特徴を描き分けられるか
対策: 毎日の「読み聞かせ後の描画」習慣。親が読んだお話について「どんな場面が印象的だった?」と聞き、その場面を描かせる。
色彩感覚の養い方
基本:「色の選び方」を意識させる
親の声かけ例:
- 「なぜこの色を選んだ?」
- 「どんな気持ちの時は、どんな色が使いたくなる?」
- 「太陽は黄色だけど、朝日と夕日で色を変えてみたら?」
①暖色 vs 冷色
暖色(あたたかい色):
- 赤・オレンジ・黄色
- 使い方:「嬉しい」「楽しい」「あたたかい」という感情や風景
冷色(ひんやりした色):
- 青・紫・水色
- 使い方:「悲しい」「落ち着いた」「涼しい」という感情や風景
トレーニング: 毎週、「暖色を多く使った絵」「冷色を多く使った絵」を交互に描く。どの色がどんな感情を表現するのか、体験させる。
②明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)
明度の工夫:
- 白を混ぜて「淡い色」を作る
- 黒を混ぜて「深い色」を作る
- 時間帯によって色を変える(朝・昼・夜で色を変えるなど)
彩度の工夫:
- グラデーション(同じ色の濃淡を使う)
- コントラスト(濃い色と薄い色を隣同士に置く)
トレーニング: 色鉛筆やパステルで「グラデーション」を練習。同じ色でも「濃さ」を変えることで、空間の奥行きを表現できることを体験させる。
③配色バランス
効果的な配色:
- 3色配色:「メイン色(全体の50%)」「サブ色(35%)」「アクセント色(15%)」
- 色の統一感:同じ色族(例えば、青系)で統一する
トレーニング: 雑誌や絵本の「色の配置」を観察させる。「この絵が素敵に見えるのは、なぜ?」と問いかけ、色使いの重要性を気づかせる。
構成力・構図の養い方
①人物を中心に配置する
初心者レベル:
- 人物(自分や家族)を画面の中央に、大きく描く
- 背景は簡単に
発展レベル:
- 人物を左右どちらかに配置して、バランスを取る
- 複数の人物を、場面に応じて配置
②前景・中景・背景の使い分け
基本:
- 前景:手前の大きな要素(例:花、友達)
- 中景:中間にある要素(例:自分、テーブル)
- 背景:奥にある要素(例:建物、木、山)
トレーニング: 「3階建ての家の絵」を描かせるなど、明確に「手前・中央・奥」を意識した描画練習。
③中央から外側へのフロー
効果的な配置:
- 最も重要な要素を中央に大きく
- 関連する要素をその周囲に
- 背景は薄く、控えめに
よくある出題テーマ20個
家族・身近な人関連
- 「楽しかった家族での思い出」
- 「我が家の朝ごはん」
- 「家族で遊ぶ様子」
- 「お父さん・お母さんの得意なこと」
- 「祖父母と過ごした時間」
食べ物関連
- 「好きな食べ物」
- 「今日の夕ご飯に食べたいもの」
- 「おいしく食べている友達」
- 「ピクニックでのお弁当」
季節・行事関連
- 「春を見つけた」
- 「夏の思い出」
- 「秋の紅葉狩り」
- 「冬の雪遊び」
- 「お正月」「七夕」「クリスマス」
学校・保育園関連
- 「幼稚園(保育園)での得意な遊び」
- 「お友達と楽しく遊んでいる様子」
- 「運動会でがんばる自分」
- 「発表会での姿」
その他
- 「動物とのふれあい」
- 「自分が大きくなったら」
学校別・絵画試験の重要度と傾向
学校重要度よく出るテーマ特徴慶應義塾幼稚舎⭐⭐⭐家族・身近な人人物表現を重視早稲田実業初等部⭐⭐⭐⭐テーマ指定型想像力・表現力重視東洋英和女学院⭐⭐⭐四季・季節行事色彩感覚重視筑波大附属小学校⭐⭐⭐⭐ストーリーテリング複雑な構成力要求成蹊小学校⭐⭐⭐家族・食べ物バランス重視立教小学校⭐⭐基本的テーマ基本的な表現で十分
自宅でできるトレーニング20パターン
Aグループ:観察力トレーニング(毎日)
- 身近な物の観察描き:家族の顔を「毎日」描く。細かい特徴(目の大きさ、髪の毛の流れなど)を意識
- 窓から見える風景:毎日同じ時間に、同じ場所から見える景色を描く。時間帯で色がどう変わるか観察
- 動きのある人物描き:遊んでいる友達、走っている子、寝ている姿勢など、異なるポーズを描く
- 動物の特徴観察:図鑑を見ながら、動物の特徴(足の数、耳の形、毛の質感)を描く
- 季節の風景変化:同じ場所を「春・夏・秋・冬」で描き分ける
Bグループ:想像力トレーニング(週2~3回)
- 「もしも」ストーリー描き:「もしも自分が動物だったら」「もしも空が飛べたら」というテーマで描く
- 音や感覚から絵へ:親が「ザザザザ」という音を出し、子どもがその音から想像する絵を描く
- 感情から色へ:「嬉しいときの色」「悲しいときの色」を描く
- 昨日の思い出を描く:「昨日何が楽しかった?」と聞いて、その場面を描かせる
- 物語の続きを描く:読み聞かせたお話の「続きのストーリー」を描く
Cグループ:表現力トレーニング(週2~3回)
- 感情表現:同じ人物を「怒っている顔」「悲しい顔」「笑顔」で描き分ける
- 動きの表現:「歩いている」「走っている」「寝ている」などの動きを表現する
- 空間の奥行き表現:「手前に大きな花、奥に小さな建物」という奥行きを意識した描画
- 色を使った雰囲気づくり:「暖かい日の家族時間」と「寒い日の家族時間」を色使いで表現
- グラデーション練習:同じ色で濃淡をつけて、奥行きや質感を表現
Dグループ:指示理解力トレーニング(週1~2回)
- 複数指示の実行:「左側に太陽を、右側に月を、中央に自分を描きなさい」という複数条件を守って描く
- 色指定画:「空は青、地面は緑」など、色を指定されて描く
- サイズ指定:「自分は大きく、友達は小さく描く」という指定を守る
- 配置指定:「上半分に屋外、下半分に室内」など、画面を分割して描く
Eグループ:時間管理トレーニング(週1回)
- 制限時間内での完成:「10分で完成させる」というタイムアタック。時間管理の意識をつける
よくある失敗パターンと対策
❌ 失敗1:「親が『もっときれいに』と指導してしまう」
親が完成度を重視すると、子どもは「親が満足する絵」を描こうとしてしまい、個性が失われます。
✅ 改善:
- 「きれいに」より「その子らしさ」を褒める
- 完成度より「工夫」「発想」「丁寧さ」を褒める
❌ 失敗2:「テンプレート的な絵になってしまう」
同じパターンの絵(いつも同じ構図、同じ色使い)ばかり描いていると、試験では「その子の個性」が見えません。
✅ 改善:
- 毎週異なるテーマで描く
- 「いつもと違う色を使ってみたら?」と促す
- 複数の視点から物を描く練習
❌ 失敗3:「観察なしに、想像だけで描く」
「好きな食べ物」というテーマで、実物を見ずに描くと、リアリティがなく「見たことのない奇妙な形」になることも。
✅ 改善:
- テーマに関連した「実物」を一度見せる
- 「どんな色だった?」「どんな形だった?」と聞いて、観察させる
まとめ:「絵画試験」は「その子らしさ」を見る試験
小学校受験の絵画試験は、「上手い絵を描ける子」ではなく、「その子の個性・観察力・想像力・表現力」を見ています。
年中の時点から、毎日の「気軽な描画」を習慣化することで、自然と絵を描く力が育まれます。重要なのは「完成度」ではなく、「その子が何を見て、何を感じ、どう表現したのか」なのです。
親が子どもの「個性的な発想」を褒め、励ましながら、親子で一緒に「描く楽しさ」を共有することが、絵画試験合格への最短経路なのです。


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